治療は早く始めるのが基本!小2で未治療は危険です!
標準的な咬み合わせでは、上の前歯は下の前歯に2~3mmくらいかぶさっていますが、前歯の咬み合わせが逆になっている状態を反対咬合、受け口、下顎前突などといいます。
軽度な場合は、1〜4歯程度が逆になっています。重度になると逆になっている部分が増え、前歯も奥歯も逆になっている方もいます。また、切端咬合といって、上下の前歯の先端がちょうどぶつかっている状態も、反対咬合の一種といえます。
反対咬合の治療は小学校低学年で気づいて治療開始する場合が多いですが、この時期の治療が不十分だと、思春期のあごが急成長する時期に症状が悪化して、反対咬合が再発することがあります。そのため、小学生の時期の適切な治療と、長期にわたる経過観察が必要になります。
【 治療開始時期 】
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開始時期は、小学校入学時(6〜7歳)が目安です
顎整形力(Orthopedic Force)を発揮する装置が上手に使えるのは、年長〜小学1年からです。この頃はまだあごの骨も未成熟で柔らかく、治療の効果も高い時期です。この時期に開始すれば「手遅れ」といったこともほとんどなく、当院では一番お勧めの開始時期です。
また近年は3、4歳からの治療が注目されるようになりました。症状が重い人や、遺伝性の方は3、4歳から機能的装置(ムーシールド、プレオルソ、ビムラー装置)を使った方が良いケースもあります。軽症の方でも、3、4歳からの治療で改善し、その後の治療が不要になる方もいます。ご心配な方は早めのご相談をお勧めします。 -
遅くても、小4(9歳〜10歳)には治療を開始しましょう
小学3~4年生は、低学年に比べれば治療の効果は高くありませんが、まだまだ顎整形力(Orthopedic Force)の効果がでる時期です。当院でも、9歳(小4)から上顎前方牽引装置(フェイスマスク)を装着し、十分に骨格の改善ができたケースもあります。ただし思春期が始まる前までの治療期間が少ないため、正常なバランスになるまで治療が続けられないこともあります。
小学5~6年生以降では上顎前方牽引装置(フェイスマスク)の効果が少ないため、治療の効果が十分にでない場合もあります。他の方法(デンタルコンペンテーションなど)をご相談する場合もありますが、それ以降の年齢で矯正治療を行うよりは、まだまだ治療の手段が多くあります。
まずは気がついた時に一度ご相談ください。そのときそのときで、最善の治療方法を見つけていきたいと思います。
【 治療しない場合のリスク 】
小児の反対咬合を治療しないままだと、見た目と機能が悪くなり、治療も困難になり、以下のような状態になる可能性が高いです。できるだけ小学校1年までにご相談ください。
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成長とともに下顎が大きくなり症状が悪化する
軽症の反対咬合であっても 、治療せずに放置しておくことで、顎の骨の成長や、お口の機能に悪影響を及ぼし、年齢とともにあごの形がより気になる骨格性へと移行していきます。
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治療開始が遅いと完全に治らなくなる
6〜7歳までのスタートであれば、歯並びばかりでなく、顔立ちも改善できますが、治療を後回しすると治療の難易度が上がっていきます。治療開始が遅いと、歯並びは改善できても、顔立ちの改善までできない場合があります。将来「あご」を切る手術(顎矯正手術)をしないと治らなくなることもあります。
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咀嚼(そしゃく)や発音などの機能の回復が難しくなる
小児の時期は、咀嚼(そしゃく)や発音などの正しいお口の機能を自然に学ぶ時期です。この時期に反対咬合になっていると、間違った咀嚼(そしゃく)や発音を習得してしまい、あとで回復するのが困難になります。
乳歯列(2~6歳)の反対咬合・受け口は、永久歯が生える時に、自然に治ることがあります。このことは歯学部の教科書にも載っていて、歯科医にはよく知られています。
しかし、最新の研究では10%〜15%が自然治癒するとの見解が多く、それほど多い比率ではありません。また自然治癒したものが成長期に再発している可能性も否定できず、治ったから安心という考えは危険です。反対咬合は思春期の下あごの成長にともない、中学生にかけて急に悪化することがあるので、自然治癒したとしても6〜7歳で一度ご相談されることをお勧めします。
参考文献:種市梨紗, :乳歯列反対咬合治療の効果と予後に関する縦断的研究, 北海道歯学雑誌, 32(2), 104-113 Issue Date 2012-03
ほとんどの方が1年以内に治りますが、
再発を防ぐために2〜3年治療を続けます
初診時に横顔のレントゲン写真(セファログラム)を撮影し、下あごが標準より大きいかどうか検査します。軽度な方を除いては、顎整形力(Orthopedic Force)を使って、上下のあごの大きさのバランスをとります。通常は6ヶ月前後で反対咬合は改善しますが、反対咬合が再発するリスクを減らすため、2〜3年程度は治療を継続します。
また、オーバーコレクションといって、思春期の下あごが急成長する時期に備えて、上あごを多めに移動して、やや出っ歯さんの状態にすることもあります。その後経過観察をして、再発がないことを確認します。
当院の顎整形力(Orthopedic Force)の治療は、他の矯正装置に比べて改善効果が高く、6歳〜7歳頃からの治療開始であれば、中学生以降に反対咬合が再発することはまずありません。
反対咬合・受け口の方には、当院では上顎前方牽引装置(フェイスマスク)を主に使用します。
「顎整形力(Orthopedic Force)」で顔立ちを重視した治療
適切な時期に顎整形力(Orthopedic Force)をかけることで、バランスの良い顔立ちに回復可能です。
小児では今しかできない治療を優先しておこなうことになるので、顎整形力(Orthopedic Force)での治療をとくに重視しています。成長が止まる15〜17歳での顔立ちを予測して治療を進めます。
顎整形力(Orthopedic Force)とは?
あごの骨の移動や変形を目的とする矯正力のことです。成長期に矯正器具をとおして、数週間〜数年にわたってあごの骨に力をかける治療をおこないます。この治療によって、上顎前突や反対咬合・受け口を、ダイナミックに改善することができます。
「あご」を切る手術を避ける治療
反対咬合・受け口は成長期に適切な治療をしないと、外科矯正という「あご」を切る手術を併用した矯正治療が必要になる場合があります。このような手術を避けるためには、適切な時期に顎整形力(Orthopedic Force)を発揮する装置の使用が必要です。小児からこのような治療をしていた方は、成長期に下あごの成長が活発であっても、「あご」を切る手術(外科矯正)でないと治療できないほど悪化することは、ほとんどありません。
※外科矯正とは?
外科矯正とは、下顎の骨格が過剰に大きいため高校生以降で「あご」を切る手術をおこなって、矯正治療を行う方法です。手術だけで治療が終わるのではなく、初めに外側ワイヤー矯正を1〜2年程度おこない、提携病院での入院・全身麻酔による外科手術を経て、再度6ヶ月以上のワイヤー矯正治療をおこないます。手術時期は高校生以降が目安になり、手術の予定より1〜2年前から外側ワイヤー矯正を開始します。
こどもが無理なく使える装置
長年の治療経験の中でいろいろな装置を試した結果、誰が使っても一定以上の効果があり、誰でも無理なく使える装置を選択しています。
当院で使う上顎前方牽引装置(フェイスマスク)は夜間就寝時のみ使うので、患者様がもっとも使いやすい装置です。
固定式装置(自分では外せない付いついたままの装置)は、全部の歯にブラケットが付くような装置ではないので、比較的痛みの少ない装置です。
数日間は違和感が生じる場合がありますが、その後は不快症状などを訴えることは少ないです。
再発しないように長期に観察をします
思春期に下あごが急成長する時期があり、その時期までは再発しないかどうか経過観察が必要になります。定期的にレントゲン、写真、iTero(口腔内スキャン)を撮影して、下あごの成長の様子を確認していきます。当院は、経過観察の費用まで含まれた“トータルフィー”なので、追加費用なく安心です。
当院の特徴:専門医院だから2期治療まできちんとフォロー!
反対咬合は、中学生までの管理が必要な歯並びです。
小児の治療はここまでが限界、あるいは再発したので当院ではこれ以上治療はできないと、他院での治療を勧めるようなことはありません。
中学生以降にデコボコの問題点が残ったり、開始時期が遅くて中学生で切端咬合になったなどの場合は、引き続き2期治療で改善可能です。
違和感が少ないマウスピース型矯正装置で早期にでこぼこの改善
前歯のでこぼこの改善を違和感の少ない取り外し式装置で快適に行いたい方は、小児のマウスピース型矯正装置(インビザライン)を併用して治療することも可能です。使用時間は夜間就寝時のみが基本で違和感が少なく、むし歯になりにくい装置です。他の装置と違い前歯のでこぼこの治療も初期から改善可能です。
患者様の症状によっては、より早期に広範囲の改善が見込める、小児包括矯正治療を選択することも可能です。
※通常の小児の矯正治療(1期治療)でも、小児の時期に行なっておいた方が望ましい歯列の拡大は行うことが可能です。
当院でおすすめしている小児矯正治療のご相談のタイミングは、4歳、6歳、9歳です。患者様によって最適な治療タイミングが異なります。治療開始が早すぎれば、治療期間が長くなりますが、「顎整形力(Orthopedic Force)」は発揮しやすくなります。治療開始が遅ければ、あごの形の改善が不十分になるリスクがあります。しかし、軽症の方は、治療期間が短くて済むメリットがあります。
4歳
下あごがとくに大きかったり、ご両親のどちらかが反対咬合・受け口だった場合は、4〜5歳での治療開始が望ましいことがあります。主にとりはずし可能なマウスピースタイプの矯正装置を夜間就寝時に使用が、その装置に対する協力度を見ながら、装置を徐々に増やしていきます。
6歳
一般的には6歳〜7歳で開始すれば間に合うこと多いです。固定式装置(自分では外せない付いついたままの装置)も使用でき、さまざまな装置の使用が可能です。2〜3年治療を継続するのに都合のよい開始時期です。
9歳
軽症の方は、9歳からでも十分なことがあります。前歯の移動だけで治療が完了することもあります。
咬合誘導装置(ムーシールド、プレオルソなど)
主に未就学の4〜5歳の方に使用しています。夜間の使用が中心です。
1、2年以上の長期に使うことで、顎整形力(Orthopedic Force)を発揮が期待できます。
上顎拡大装置(ハース)
固定式の拡大装置です。急速拡大装置とも言われ、
通常1〜2ヶ月の拡大期間で上あごの歯並びを側方に拡げます。上顎前方牽引装置(フェイスマスク)を使用する際にも使用するので、装着期間が1〜2年以上になることもあります。
下顎拡大装置(下顎ハイラックス)
固定式の拡大装置です。
通常10ヶ月程度の拡大期間で下あごの歯並びを側方に拡げます。
フェイスマスク(上顎前方牽引装置)
大きさに驚かれる方もいらっしゃいますが、使用するのは夜寝る時だけで、この装置が使えずに他の装置に変更された方はいません。効果は非常にシャープなので、骨格性の反対咬合の人には必須の装置です。
「寝相の悪い子供でも大丈夫ですか?」、「顔を傷つけてしまうだろうか?」、といったご質問をいただくことがありますが、装置はゴムで固定されているので、寝返りをうっても装置が外れたり、顔が傷つくことはありません。多くの患者様は、数日で慣れていきます。
また就寝時に装置がずれてしまい、治療の効果がでているのか心配される方もいますが、通常1ヶ月以内にずれることもなくなります。
こどものマウスピース型矯正装置(小児インビザライン)
口腔内スキャナーで患者様の歯型を撮影して作るカスタムメイド(オーダーメイド)のマウスピース型矯正装置です。 形状の異なる装置に7~14日に1回交換し、歯を少しずつ動かします。
装置は3Dプリンターとコンピューター技術を組み合わせて海外の工場で製作します。患者様の歯型をとって製作するため、患者様の歯にぴったりフィットし、痛みや違和感が少ない装置です。
数カ月~1年後の歯並びの変化を予測し、1度に10~50枚程度の装置を作成して患者様にお渡しします。
当院で定期検診を受けながら、ご自宅でご自身のスケジュールに合わせてご利用いただけます。
歯の動きがスムーズで、叢生(でこぼこ)の改善に非常に適した装置です。お子様の場合は、夕方から翌朝までのご使用で十分な場合がほとんどです。
部分的なワイヤー矯正
2×4 (ツーバイフォー) 装置としても知られる部分ワイヤー装置は、一部の乳歯がまだ残っている混合歯列期で使用されます。
1ヶ月に1回調整しながら、比較的短期間3~6ヶ月使用します。
左右の第1大臼歯に装着するバンド装置と、永久歯の前歯に装着する4つのブラケットから構成されます。すべて1本のアーチワイヤーで固定されています。
主に前歯の歯の動きを三次元的にコントロールします。前歯の前方および上方への移動、歯の回転移動、歯の隙間を閉じる移動、反対咬合の改善などに使用します。
取り外し装置よりもより精密な移動が可能です。
こどもの反対咬合には2種類あります
骨格性反対咬合
下顎骨が大きかったり、上顎骨が小さいことによっておきる反対咬合を、骨格性反対咬合といいます。下あごが大きい特有の顔貌は、下顎前突、しゃくれ、三日月顔などとも呼ばれます。
小さい頃は顔貌自体に大きな問題ない人も、思春期の下あごが急成長する時期に下顎前突、しゃくれ、三日月顔などが気になるようになるときもあります。
歯槽性反対咬合
上顎と下顎の大きさのバランスは良いが、上の前歯の内側への傾斜や、下の前歯の外側への傾斜が強いため、前歯が反対咬合になる症状を、歯槽性反対咬合といいます。
骨格性反対咬合に比べると軽症で、治療も簡単な場合が多いです。ただしそのままにしておくと、下の前歯が上顎を押さえ込んで上顎の前方への発育を妨げたり、上顎の前歯が下顎骨の成長を抑える役割が不足し、徐々に骨格性反対咬合に移行していきます。
反対咬合になる時期
乳歯がすべて生え揃う3歳
2〜3歳ごろに保護者が気づかれることが多いです。3歳児健診で発見されることもあります。
永久歯の前歯が生える6歳
乳歯のときは前歯は正常でしたが、永久歯の前歯が生える6歳ごろに咬み合わせが逆になる方がいます。
思春期成長期の12歳〜15歳
小学校の頃は正常でしたが、思春期の下顎の成長とともに次第に発現する方がいます。こどもの矯正治療で反対咬合を治療し、一旦前歯が正常になったにもかかわらず、この時期に再発することもあります。
幼児は下あごが小さいのが標準です!
子どもの顔の特徴は、下あごが上下的に小さく、前後的にも短くて、唇から下あごの先端までの距離が短いです。大人になると下あごがガッチリと大きくなり、前後にも上下にも大きくなります。顔全体も面長(おもなが)になり、大人の顔立ちになります。しかし、脳の骨(頭蓋骨)や、唇から上の部分(上顎骨)の大きさは子供とさほど変わりません。
下あごの成長の法則
顔の骨は、1)脳を守る頭蓋骨、2)上顎骨、3)下顎骨の3つに分けられます。それぞれ成長するタイミングが違います。
脳を守る頭蓋骨の成長が先行し、つぎに上顎骨が成長し、最後に下顎骨が成長します。脳を守る頭蓋骨の成長は、非常に早い時期からダイナミックに始まり、5歳では大人の80%程度まで大きくなります。人間の司令塔である脳はまず最初に大きくなるようにプログラムされているようです。上顎骨は脳の近い組織のため脳を守る頭蓋骨の成長に似ていて、10歳ごろまでに成人の約90%成長します。下顎骨の成長のピークは10〜16歳頃で、もっとも遅れて大きくなります。
下顎骨の成長は、身長の伸びる時期に大きくなり、身長の伸びが止まると下顎骨の成長も止まります。
スキャモンの発育曲線
幼児の下あごが小さいのが標準です!
当院ではこどもの顔立ち、とくに横顔を注意して観察し、患者様の成長後の顔立ちを予測します。下顎前突、しゃくれ、三日月顔の兆候はないのかどうかがとても重要です。正確には横顔のレントゲン写真(セファログラム)を撮影するとはっきりしますが、経験からある程度は類推することが可能です。
反対咬合・受け口の患者さんはもちろん、そうでない患者様も横顔を注意して観察します。幼児〜小学校低学年の時点で下あごが標準より大きい場合、その後の成長で下あごが小さくなることはありません。一般的に下あごが大きい印象は、思春期以降に徐々に明らかになります。小さいころには下顎が大きいことに気付かず、むしろ大人びた可愛らしい顔立ちと感じていたお子さんが、思春期の下あごが成長する時期になって急に下顎前突、しゃくれ、三日月顔の症状が明らかになることがあります。
下顎が前後的に小さい状態です。
こどもの横顔としては、このくらいがちょうどよいバランスになります。
少し下あごが大きく、大人びた子に見えます。歯並びの状態は写真ではわかりませんが、反対咬合ではないと思います。
しかし下あごが標準より大きいです。思春期を迎えて下顎が大きく成長してきたときに、ややしゃくれた印象になると思います。
反対咬合にはならない可能性がありますが、顔立ちとしては、少し心配な状態です。
下あごと身長の伸びはシンクロします
身長が伸びるのは、手足の骨が伸びるからです。手足の骨は長幹骨という種類の骨で、骨の両端に骨端線という軟骨があり、成長ホルモンがそこへ作用することで骨が伸びます。思春期に急激に身長が伸びるのは、その時期に成長ホルモンの分泌が旺盛になるからです。
実は、下顎骨も手足の骨と同じ構造体の長管骨です。成長ホルモンの作用で、身長の伸びとシンクロして下顎骨は大きくなります。ですから、思春期の身長が急激に伸びる時期(女子で9〜14歳、男子で12〜16歳頃)に下顎骨は急激に大きくなります。一般的に女子では15歳頃、男子では17歳頃まで身長が伸びますが、下顎骨も同じ頃まで成長します。
脳を守る頭蓋骨と上顎骨は長幹骨ではないので、思春期の成長期に急に大きくなることはありません。
身長の高ければ高いほど、下顎骨は大きくなります。身長が高いスポーツ選手では、反対咬合は比較的多いです。
反対咬合の遺伝的要素がある人は、歯並びを中心に考えると、身長の伸びは平均身長程度で止まってくれた方が良い場合もあります。
反対咬合・受け口の原因
遺伝的要因が強いと言われています。欧米人の反対咬合発現率は1%(『プロフィトの現代歯科矯正学』より)ですが、日本人では厚生省の歯科疾患実態調査から類推すると切端咬合を含む反対咬合者は約10%と考えられます。欧米の方に比べると日本人に圧倒的に多い不正咬合です。
家系的・遺伝的要因が強くあり、患者様でも、ご両親か祖父母の方に反対咬合の方がいらっしゃる場合が多いです。有名なのは中世ヨーロッパのハプスブルク家です。近親婚が多かったこともあり、1500年生まれのカール5世以降、「ハプスブルク家のあご」といわれる下顎前突症が一族に多かったです。
カール5世も食事は丸呑み状態であったことが伝えられています。
患者様でも近親者にまったく反対咬合の方がいない方もいます。しかしその患者様のDNA(生命の設計図)には、やはり反対咬合の情報が書き込まれていたと考えられます。
環境的要因としては、上の唇を吸引する癖や、低位舌などの習癖が要因となることがあります。またむし歯が多いなどの原因で生え変わりの順序の乱れがあってなる場合もあります。唇顎口蓋裂患者さんでは口唇の形成術による術後の瘢痕(はんこん)のため上顎の発育が悪くなり、反対咬合になることが多いです。
※低位舌とは、舌の位置が正常よりも低い状態のことをいいます。
アレルギー性鼻炎、扁桃肥大による鼻閉、口呼吸、舌小帯付着異常などが原因になります。
そのままにしていると、顔立ちが悪くなり、心身の発達に影響が出ます
反対咬合・受け口のまま大人になると、以下のような影響が出ます。
従来の1期治療で使う装置
歯に無理な力がかかるので、歯に負担がかかると考えられます。80歳で20本の歯がある方(8020達成者)には、反対咬合の方はほとんどいないという調査があり、歯を早いうちから失いやすい歯並びといえます。
参考文献
宮崎晴代, 茂木悦子, 一色泰成, 他: 8020達成者の口腔内模型および頭部X線規格写真分析結果について, 日矯歯誌, 60(2): 118-125, 2001.
顔立ちが悪くなる
反対咬合特有の顔貌(下顎前突、しゃくれ、三日月顔)になります。
「サ」行や「タ」行の発音に問題が出る
「サ」行や「タ」行の発音に問題が生じたり、こもった発声になりがちです。
また英語の発音では、「f」や「v」の上の前歯を下唇にあてることができなくなります。
咀嚼(そしゃく)がうまく出来ない
歯並びの悪い人は、食べづらいと訴える人が多いですが、とくに反対咬合や開咬症で、食べ物を噛みづらくなるため、丸呑みをしている方も多いと報告されています。
咀嚼障害によって、唾液の分泌が低下し、消化不良、胃腸障害の原因になっている可能性があります。
参考文献
阿部友里子, 宮谷真理子, 茂木悦子, 野村真弓, 末石研二, 他:不正咬合者における食べにくい食品とその物性 Auth Journal 歯科学報, 110(6): 767-774
心身の発達に影響が出る場合がある
見た目を気にして笑顔が減り、うつむきがちになってしまう場合があります。
顎関節に問題が生じる可能性がある
反対咬合の中でも、下顎が側方に偏位している方や、奥歯まで反対咬合になっている方に、顎関節の音、痛み、顎関節が動きにくいなどの症状が出やすいとの報告があります。
参考文献
不島健持, 秋本進, 高本建雄, 亀井照明, 佐藤貞雄, 鈴木祥井
不正咬合者における顎関節症状の発現 -顎関節症の成立機転に関する一考察-,ジャーナル フリー, 1(1) :40-50,1989